先週は新技術への投資が目立った。新技術への新たな投資案件はあるのか。同記事は日本市場で5/21-31に資金調達を実施した日本企業を抜粋、新規性、技術性、収益性、社会貢献性の4視点より、独自の評価基準を元に分析していく。
5/21~5/31の資金調達案件 紹介順
5/21 enjin(円陣) 訴訟 マッチング 6000万円
5/21 PICKS モバイルオーダー&ペイ 数千万円
5/22 akippa 駐車場 シェアリング 8.1億円
5/22 シタテル マッチング 数億円
5/23 whooop! ファンコミュニティ 投げ銭 1500万円
5/23 Braveridge IOT プラットフォーム 5億円
5/24 m2m Systems 民泊管理ツール 数億円
5/30 古着女子 メディア EC ? 円
enjin(円陣)
5/21、6000万(円)
新規性(A) テクノロジー(B) 収益性(A) 社会貢献度(A)
領域:訴訟 マッチング
投資家:500 Startups Japanと個人投資家
サービス:集団訴訟を起こしたい被害者を集めて弁護士とつなぐ、集団訴訟プラットフォーム
解決する課題:弁護士費用が高いために少額被害者の多くは泣き寝入りをしている。
参考:https://jp.techcrunch.com/2018/05/21/enjin-the-class-action-platform/
概要:30万以下の被害だと、弁護士を雇う費用でトントンとなってしまい、被害者も弁護士を雇いたいし、弁護士は被害者を救いたくても事件を受けることができない。「enjin」ではまず、被害者が集団訴訟プロジェクトを立ち上げて、同様の被害に遭った人にプロジェクトへの参加を募る。一定数の被害者が集まったところで、enjinに登録した弁護士にプロジェクトが紹介され、弁護団を形成する。
評価 :CEOの伊澤氏が弁護士なのはよい。市場が多くなさそうではあるが、消費者被害で年間約4.8兆円の被害が報じられている。リターンも見込め、悪質な業者も退治できるすばらしいサービスである。
PICKS
5/21、数千万円(円)
新規性(B) テクノロジー(B) 収益性(B) 社会貢献度(B)
領域:モバイルオーダー&ペイ
投資家:エウレカ創業者である西川順氏とKLab Venture Partners
サービス:テイクアウトの事前注文・決済サービス
解決する課題:長い行列に待つ必要も、その場でお金を払う必要もない。
参考:https://jp.techcrunch.com/2018/05/21/picks-fundraising/
概要:ユーザーはアプリから周辺エリアでPICKSに対応している飲食店を探し、メニューの選定から注文、決済までを事前に済ませておく。あとは注文時に指定した時間にお店にいくだけ。
評価 :アプリを通じたテイクアウトの事前注文・決済は、海外ではモバイルオーダー&ペイという名称で急速に拡大している領域。スターバックスやマクドナルド、宅配ピザチェーンなどを始めとした様々な外食チェーンが導入する。外食業界の巨人マクドナルドは、年末までにアメリカ国内1.4万店にモバイル・オーダー&ペイを導入すると発表した。日本でも展開するスターバックスやマクドナルド、大手外資ピザチェーンなどがアメリカでの成功を生かして日本でもモバイル・オーダー&ペイを本格化するのは確実視されている。しかし、正直日本のサービスレベルで急激に拡大しないと考える。日本ではそこまで行列に悩むペインポイントが実感値として無いからである。2020年のインバウンド需要で日本にも一気に増える可能性はあるが。
akippa
5/22、8.1億(円)
新規性(B) テクノロジー(A) 収益性(A) 社会貢献度(B)
領域:駐車場 シェアリング
投資家:住友商事 日本郵政キャピタル JR東日本スタートアップ ニッポンレンタカーサービス FFGベンチャービジネスパートナーズ 中部日本放送 千島土地
サービス:駐車場シェアリングサービス
解決する課題:駐車場を探す・支払うの手間を省く
参考:https://jp.techcrunch.com/2018/05/22/akippa-fundraising/
概要:貸し手側は空いている駐車場を貸し出すことで駐車料金の50%を収入として得られる。導入時に精算機や車止めなど初期投資が不要で、時間帯や日数も柔軟に選択できる。一方の借り手はアプリから15分単位で駐車場を予約することが可能だ。もともとが空きスペースなので料金がリーズナブルなことに加え、事前予約制・キャッシュレス方式を採用(クレジットカードもしくは携帯料金と合算で支払う)。当日現地でコインパーキングの空きが見つからず焦ることもないし、支払いの手間もない。2018年4月時点で会員数は70万人以上、累積の駐車場拠点数も2万箇所。
評価 :今回の「IOT端末のシェアゲート」の開発にある。前回のラウンドでは、需要に対して供給が少なく、提携駐車場の増加が必要だった。ゲートの存在する駐車場は駐車規模が大きく、そこの駐車場に注目した。独自のシェアゲートを開発し、提携先に導入することで圧倒的な数を確保できる。すでに需要があり、サービスのバケツの穴を塞いだ形である。ここから一気にスケールすることは間違いない。
また、「akippa」が考えるMaaSの第1フェーズは、車を持っていなくてもカーシェアと駐車場シェアを使って家から目的地まで快適に移動できる体験である。一貫性のある体験を提供できる会社になりうる。シェアライド、自動運転の追い風も考えるとかなりのインパクトになると考えられる。
シタテル
5/22、数億(円)
新規性(A) テクノロジー(A) 収益性(A) 社会貢献度(A)
領域:マッチング
投資家:スパイラル・ベンチャーズ・ジャパン,FFGベンチャービジネスパートナーズ,朝日メディアラボベンチャーズ,SMBCベンチャーキャピタル,オプトベンチャーズ(既存株主),三菱UFJキャピタル株式会社(既存株主),その他非公開の投資家
サービス:縫製工場と制作したい人との効率的なマッチング
解決する課題:工場リソースの可視化と効率化
参考:https://jp.techcrunch.com/2018/05/22/sitateru-funraising/
概要:縫製工場の技術や、サプライヤーのリソースをデータベース化。グッズを制作したいファッションブランドやセレクトショップの要望と工場の稼働状況などを考慮し、適切にマッチング。「小ロット・高品質・短納期」を目指す。現在は7000を超えるクライアントが登録する。
評価 :衣服はなくならない市場の1つである。工場リソースのデータ化、シェアによる効率化需要は、生産側、発注側双方に需要がある。この需要は縫製工場だけでは無い。その他にも応用できるスキームが生まれればさらにはねる可能性はある。
whooop!
5/23、1500万(円)
新規性(A) テクノロジー(B) 収益性(B) 社会貢献度(A)
領域:ファンコミュニティ 投げ銭
投資家:谷家衛氏や高野真氏
サービス:電子トレーディングカードでチームに投げ銭できる
解決する課題:アスリートへの応援
参考:https://jp.techcrunch.com/2018/05/23/ventus-whooop/
概要:スポーツチームやアスリートがファンから資金を調達できるプラットフォーム。ただしwhooop!の場合は独自のコインでも、ポイントでもなく“電子トレーディングカード”を用いている点が最大の特徴。カードを買うことで、90%がチームの資金になり、応援できる。10%がwhooop!の取り分となり、ファンの間でカードを売買した際にも取引手数料として2.5%がチームに支払われる仕組みだ(同じくwhooop!にも2.5%が支払われる)。
評価 :単発的になりやすいクラウドファンディングとは異なり、カードはシーズンやイベントごとに発行できるので、継続的な支援を受けやすい素晴らしい設計。ちなみにスポーツ参加市場の規模は、4兆円ある。スポーツゲームには常に一定の需要があり、2年に一度は盛り上がる要因がある。
Braveridge
5/23、5億(円)
新規性(A) テクノロジー(A) 収益性(A) 社会貢献度(A)
領域:IOT プラットフォーム
投資家:ジャフコが運営するファンド
サービス:IOTデバイスに安価で接続できる機器販売
解決する課題:IoTネットワーク構築の機器費用の高さや消費電力多さ
参考:https://jp.techcrunch.com/2018/05/23/braveridge-released-ble-rooter/
概要:BLE(Bluetooth Low Energy)端末をLPWAやLTEなどの広域通信網に中継できる「BLEルーター」シリーズを発表した。インターネット環境のない場所でも安価なBLE端末を設置して、BLEルーター経由でIoTサービスを使うことができるようになる。Braveridgeでは、最新のBT5.0-Long Rangeモジュールを開発。低コスト・低消費電力・1Kmまでの長距離通信を実現した。
評価 :IOTの一番の課題を解決している、プロダクトの開発であり、今後のIOT社会を考えれば確実に伸びる。懸念点は技術的に実現可能かという点ではあるが、Braveridgeはベンチャーではなく、2004年に始まっている。Apple社やSONYと提携するほどのものつくり会社である。
m2m Systems
5/24、数億(円)
新規性(B) テクノロジー(B) 収益性(A) 社会貢献度(B)
領域:民泊管理ツール
投資家:DasCapital(連続起業家の木村新司氏が代表を務める投資会社)、ファンドクリエーション、リンキンオリエント・インベストメント
サービス:複数のAirbnbアカウントを登録・一元管理できる民泊管理システム
解決する課題:民泊管理の効率化
参考:https://jp.techcrunch.com/2018/05/24/matsuri-technologies-fundraising/
概要:メッセージの自動送信、清掃状況の確認と手配、複数アカウントの一元管理などを通じて、事業者の業務効率化に加えて物件の稼働率の向上もサポートする。2018年5月には登録件数が1万5000施設。
評価 :2018年6月に施行される住宅宿泊事業法において、年間営業日数が180日間と限定的になることから既存民泊物件の供給数は一時的に減少することが想定される。その一方で、施行後は合法的なサービスを提供しやすくなるため、大手の国内企業及び外資系企業の参入が増加し、市場全体での物件供給数は増加していくとされている。よって伸びる。
古着女子
5/30、?(円)
新規性(アルファベット) テクノロジー(アルファベット) 収益性(アルファベット) 社会貢献度(アルファベット)
領域:メディア EC
投資家:エウレカ創業者の赤坂優氏、クラウドワークス元CFOの佐々木翔平氏、フリークアウト・ホールディングス代表取締役社長の佐藤裕介氏
サービス:古着をテーマにしたECサービス
解決する課題:一点ものゆえのストーリーという古着の持つ本質的な価値に出会えながらのEC
参考:https://jp.techcrunch.com/2018/05/30/yutori-raises-their-angel-funding-round/
概要:古着の本質的に持つ価値とは、大量生産ではなく、ストーリーを持つことである。また体験としては、服を買うのより店員さんと仲良くなるのが先にあって、結果として服を買っているようなところがある。その体験とストーリーを保ったままのECを目指す。Instaは5カ月でフォロワー10万人を突破、月間のいいね数は50万を超え、現在もフォロワー数は月1万人ずつ増えている
評価 :Instagramは女性が服を探すハブになっている。調査によると、合計70.4%がInstagramの投稿を見て、何らかの消費行動を起こした経験があった。GoogleもInstagram場で商品を買えるサービスを出している。おしゃれと相性のいい、古着とInstagramの合わせ技は外れない。宣伝しなくても拡散する仕組みがあるのもよい。
まとめ
今月の投資案件は、次世代の技術への投資という案件は少なく、足もとでのビジネスへの投資が目立った。しかし、シェアリングに関係する案件が3件、コミュニティ、クラウドファンディングに関係する案件が各1件と、時代の流れに沿った投資案件が目立った。
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世界の小川。早稲田大学大学院 機械工学系。世界市場の動向をウォッチするのが趣味。特技はチャリ爆走。