「失敗なんて当たり前。あそこにいる人たちも、みんな失敗してるから。」
PLUG AND PLAYのルーフバルコニーで熊谷さんは、ランチタイム中の若者たちを指差し、笑いながらそう言った。
自分の事業プランに不安を抱え、なかなか一歩踏み出せずにいた自分にとって、雷に打たれたような衝撃的なセリフだった。
出発直前に手に入れた、アメリカ行きのチケット
サンフランシスコに行くことが決まったのは、出発の10日前だった。
私は8年間勤めた会社を退社し、実家で起業の準備を進めていた。
毎日パソコンに向き合い、祖母の手伝いや家事をこなす日々を送っていた。
思うように事業の準備が進まず、将来に不安を感じる時間が日に日に増えてきたときのことだった。
hackjpn代表の戸村さんから一通のメッセージが届いた。
「シリコンバレー研修に参加しませんか?」
「いつですか?」
「10日後です」
突拍子も無い誘いに、正直困惑した。
まず、パスポートが切れている。
そもそもスモールビジネスを考えている私にとってシリコンバレーなんて無縁の地だ。
丁重にお断りを申したが戸村さんの熱い説得が続き、経験として行くのも悪くないと思い渡米を決意。
そんな軽い気持ちでアメリカ行きが決まった。
ーー出発まで、10日しかない!
翌日、急いでパスポートの申請に行った。
発行までに1週間を要する。
チケットはパスポートに記載されている旅券番号がなければ購入できないため、パスポートを受け取ってから、すぐに購入した。
出発2日前、パスポートとチケットの手配が済み、一安心していたのも束の間。
アメリカに行くにはESTA(渡航認証)の申請が必要だと知らされ、急いで申請を行った。
幸いにも20分で認証許可の通知が届いた。
こうして、ドタバタで出発の朝を迎えた。
さぁ!待ちに待ったシリコンバレー研修
はじめに、シリコンバレーとは一体どんな街なのか。
|シリコンバレー
米カリフォルニア州サンフランシスコ南郊のサンタクララやサンノゼなどを含む地域の通称。イノベーションの震源地となるスタンフォード大学が街の中心部に位置し、GoogleやApple、Metaなど世界の第一線で活躍する企業をはじめ、日々数千ものスタートアップが誕生している。これらの企業の時価総額の合計は4.36兆ドルにも上り、世界中から優秀な人材、企業、巨額な富が集まる。
約11時間のフライトを経て、サンノゼ空港に到着。
宿泊先までUberタクシーで向かった。
初めてのテスラだった。
サンフランシスコの魅力は、世界を席巻する企業が集中しているだけではない。
「世界一美しい街」と呼ばれ、年間2000万人以上の観光客が国内外から訪れるアメリカ有数の観光都市でもある。
研修の始まる数日間は観光を楽しんだ。
日本に長らく暮らす私にとって、アメリカは治安の面で不安であったが、サンノゼは広大で、のんびりとした街だった。
むしろ日本よりも治安がいいかもしれない。
そして、いよいよ2日間におよぶシリコンバレー研修が始まった。
スケジュールは以下の通りだ。
>1日目
10:00 現地投資家・Zak 村瀬氏に学ぶ事業の作り方
12:30 Fitbit創業者熊谷氏会談
14:30 スタンフォード大学 睡眠研究・西野教授会談
16:00 Google社 訪問
19:00 スタンフォード大学でミートアップ
>2日目
10:00 現地起業家・本間毅氏会談
13:00 PLUG AND PLAY 視察
16:00 現地学生を交えたアイディアソン
17:00 Apple社視察
18:00 投資家Zak氏宅にて現地起業家交えて成果発表会&懇親会
2日間、すべてが貴重で濃密な時間だった。
普通の生活では絶対に会うことの叶わない、有名な起業家や投資家とのミーティングをはじめ、関係者以外入ることのできないオフィスの内部を視察した。
様々な分野のエキスパートの話を聞き・学ぶ中で、共通して感じたのは「失敗を恐れず、支え合いながら成長する環境が整備されている」ことだ。
シリコンバレーでは、学生からおじいちゃんまで、そして色々な人種の人々が切磋琢磨していた。
彼らは常に失敗を恐れずに勇猛果敢にチャレンジし続けていた。
また、投資家や年配者は起業家の相談役となり、時には金銭的なフォローもしていた。
つまり「人」と「知識」と「お金」が上手に循環されているのだ。
シリコンバレーでは桁違いの数とスピードでこの循環がなされており、他の国でシリコンバレーを追い越すことは到底できないとZakさんは話す。
もし日本が2倍ずつ増えているのであれば、シリコンバレーでは指数関数的に増加している、そんな次元なのだ。
研修を糧に
帰国して、自分の人生や事業プランについて改めて考え直した。
これまで、さまざまな人に起業への想いを話してきたが、
厳しい声を含めたアドバイスなど応援をしてくれる人たちがいる一方で、時に心ない言葉を投げかけられた。
記憶に深く刻まれているのは後者の方で、もし失敗したらその人たちの笑いものにされるのではないかと、足踏みしている自分がいた。
しかし、それはただの言い訳に過ぎないと気づいた。
これからは、失敗を恐れずに全力で突き進み、もっと積極的に自分を売り込もうと誓った。
シリコンバレー研修での感動をいつまでも忘れずに、いつか必ず自分の事業を成功させたい。