シリコンバレー=起業が盛んな地域
として世界中に認知されている。
いったい何が他の地域と違うのだろうか?なぜ日本はシリコンバレーと違うのか?
シリコンバレーの盛んな起業文化を支える要因の一つは大学にあるのではないか、そう思いサンノゼ州立大学でEntrepreneurship(起業家精神)の授業を教えるシャオホン・クオン教授に話を聞いた。
―学生が起業について学ぶメリットとは何でしょうか?
ビジネスを始めれば、経済的な成長や、イノベーションをもたらします。そんな社会に大きな影響を与える起業家について学生のうちに学ぶのは大変重要なことでしょう。
―大学で授業をとるよりもインターンなど実際に働いて経験を積むことのほうが起業に重要だ、と考える学生も多くいますが?
それはそれぞれのキャリアパスによって違うと思います。起業をする前に企業に就職して働きたい、と考える生徒にとっては大学での学びが重要になってきます。
実際にこの授業には、一度大企業に勤めた後に、退勤もしくは休職をして大学院に入り、Entrepreneurshipを学ぶ生徒がいます。彼らにとっては、大学までの学位や企業での実務経験よりも修士や博士といったレベルでの教育が必要なのでしょう。生涯を通して継続的に学ぶことはとても大事なことです。
―では、シリコンバレーは何が特別なのでしょうか?
この土地はすべての“エンジン”になっています。世界中に最先端の技術を届ける中心であるだけではありません。中国の北京やインドのバンガロールなど、近年では著しい発展が見られる地域が多くありますが、その発信源はこの土地なのです。
―その“エンジン”について具体的にお聞かせください
あらゆる成長の源、という意味です。この土地ではたくさんのユニークなアイデアが生まれます。例えば、カフェに行っても、学校に行っても、多くの人が新しいビジネスアイデアを思いつき、様々な場でディスカッションが起こります。そういった人々が集まって新たなイノベーションが生まれる、だからこそ“エンジン”として機能するのです。
―海外からもビジネスを始めるためにシリコンバレーに来る人が多くいます。彼らは何を求めてくるのでしょうか?
シリコンバレーの強みは起業文化です。ベンチャーキャピタル(起業家に対して投資をする人々)のサポートも充実しているし、そういったサポートはすべての人に平等です。また起業家同士のつながりも強く、セミナーやイベントなど起業家が学ぶ場も多くあります。そういった文化があるからこそ、起業家には最も適した環境といえるでしょう。
―アメリカの中でもシリコンバレーは特別なのでしょうか?
もちろんです。ただ東海岸と西海岸は特にスタートアップが盛んと言えるでしょう。東海岸でいえばボストンは有名です。そのほか、ダラスやテキサス、カリフォルニアでいえばサンディエゴやロサンゼルスなども盛んだといえるでしょう。一方アメリカ中部は保守的な傾向にあります。
―日本での起業文化についてどのようなイメージをお持ちですか?
専門的な知識があるわけではないですが、たくさんの起業家がいる、といったイメージはありません。終身雇用制度や大企業志向、といった保守的な文化からすると、若い起業家がたくさん生まれることは難しいでしょう。
この授業を受けた生徒で実際に起業した人は多くいます。去年も何人かが授業に来てレクチャーをしてくれました。すべては若い世代に刺激を与え、Entrepreneurship(起業家精神)を受け継ぐためです。
では、なぜシリコンバレーは特別なのだろうか?
一番の違いは「若い世代に受け継ぐ」という点なのではないか。この土地では起業することが一般的である。起業をするためのコミュニティーも発達している。そんなつながりがこの土地に根付いており、次の世代へ「繋ぐ」体制が整っていることが最大の違いだろう。
そしてその「繋ぐ」役割を果たす一つの組織が「大学」なのだ。
きっとこの大学で学ぶことはどこの大学でも学べる基礎である。しかし、起業したいと考えるクラスメイト、レクチャーに来る起業家など様々な人とのつながりが特別なのだ。大学の教育以上に得るものがあるだろう。
確かに今回お話を伺った教授のEntrepreneurshipの授業には、すでにビジネスを始め社会人として働きながら授業に通う生徒や、一度社会人として大手企業(Microsoftなど)に就職した後に休職し大学院に通う生徒など、様々なバックグランドを持った生徒が集まっている。もちろん私のような留学生も多い。
土地柄だけにビジネスではなくエンジニアを専攻する生徒もたくさんいる。彼らは自分のプロダクトでどのようにビジネスを始めるかを学ぶために授業をとっているのだそうだ。
「起業したい」という思いだけで集う様々な生徒がお互いに刺激を与えあい、一層Entrepreneurshipを奮い立たせるのだろう。