2017年は、多くのテクノロジー分野で「元年」が謳われた年であった。
「ドローン元年」
「仮想通貨元年」
「VR元年」
そして、忘れてはならないのが「AI元年」である。
「AI元年」が声高らかに謳われた2017年が終わり、その発展にますます期待が高まる2018年。その2018年の幕開けから早くも4ヶ月が経過しようとしている。今回は、2018年4月前半の米国AI関連企業の資金調達状況について分析を行った。
2018年4月1日から14日までに資金調達をおこなったAI関連企業の総数は254社、そして調達額を公表している企業の平均資金調達額は24,593,102米ドルであった。(2018年4月14日時点で日本円にしておよそ26億円。)
また、$100,000,000(およそ10億円)以上の調達に達成したのは、Impossible Foods社、Livongo社、Checkr社、Cherwell Software 社、Instacart 社、Quill社、RefleXion Medical社、Sunnova社、Constellation Pharmaceuticals社、The Credit Junction社、Allogene Therapeutics社、Sunlight Financial社、Quality Systems社、Connexeo社、Biocytogen社の計16社となっている。
〈$100M(約100億円) 以上の調達を行なった企業の概要(金額順)〉
$410M (4/10)
・Biocytogen社
同社は、北京の経済技術開発区に本社を置いているバイオ医療品に関するCRO(開発業務委託機関)である。製薬会社向けに、臨床実験用の遺伝子操作されたラットなの販売をしている。
$300M (4/2)
・Quality Systems社
同社は、NextGen Healthcare Information Systems Inc. 社(子会社)と共同で、医療分野の業務自動化のためのヘルスケアシステムの開発を行う。同システムは、病院や病院運営サービス組織、外来センター、コミュニティケアセンター、医科・歯科大学などをターゲットにしている。カリフォルニア州アーバインに本社を構えている。
$300M(4/3)
・Allogene Therapeutics社
同社は、バイオテクノロジーを使った癌治療を開発している。後に述べるConstellation Pharmaceuticals同様、医療分野での資金調達である。同社は、Two River社のポートフォリオカンパニーである。(ポートフォリオは、ファイザー社(Pfizer)などを含む、バイオテクノロジー分野で最大規模のシリーズA投資コンソーシウムと連携している。)
$225M (4/4)
・Sunlight Financial社
同社は、住宅向けソーラーパネル事業を行なっている。後述のSunnova社と違い、パネルの販売ではなく、頭金なしでパネルを顧客に貸し出すビジネスモデルである。Hudson Clean Energy Partners社により設立された。
$172M (4/4)
・Cherwell Software社
同社は、企業のルーティン作業を自動化したり、HRやセキュリティ分野でのITサービスを提供するソフトウェア会社である。同社の業務は多岐にわたり、40ヶ国以上で利用されている。
$150M (4/5)
・Instacart社
同社は、従来ECサービスが提供できなかった新鮮な野菜や果物を、その地域の店舗から配達するサービスを提供している。同社の成功を追随するかたちでAmazon Freshなどの事業も誕生したことから、同サービスを提供する企業の中ではパイオニア的存在であると言える。
$150M (4/5)
・The Credit Junction社
同社は、主に中小企業・ビジネスをターゲットに、資金調達のサポートを行う。オンラインで事業内容などについての簡単な申し込みをすれば24時間以内に同社より電話があり、最短で14日で投資を受けられるというタイムリーなサービスである。
$125M(4/3)
・Basecoin社
同社は、Intangible Labsの傘下で仮想通貨事業を手がけている。収益の見込める安定したスタートアップへ投資するANDRESSEN HORWITZ社などから投資を受けている。
$114M (4/3)
・Impossible Foods社
同社は、植物を原料として肉やチーズを作っている。文字通りImpossible(不可能)に思われるようなFoodsを開発しているのである。Wall Street JournalやVoxなどでも取り上げられたため注目度が高く、地球環境にも良いことから、これからより成長が見込まれる。
$110M (4/9)
・Connexeo社
同社は、教育現場やローカルコミュニティ向けに、ペイメントシステムをサポートするソフトウェアなどを開発している。国語や算数、といった教育だけでなく、アートセンターや博物館向けのサービスも充実している点が特徴である。
$105M (4/11)
・Livongo社
同社は、「持病を持つ人々がよりよく生きられるようサポートする」という理念のもと、ユーザーの持病データに基づいた記事を提供したり、必要な検査品を必要な時にすぐ届けるサービスを提供している。また、24時間365日相談に応じるサポート体制を始め、ユーザーを「コミュニティ」としてサポートする体制にも注目が集まっている
$102M (4/3)
・Quill社
同社はフリーランサーと、フリーランサーと事業を行う企業向けのペイメントサービスを提供している。報酬の前払いにも対応している点で画期的である。TechcrunchやWall Street Journalでも取り上げられた。
$100M(4/12)
・Checkr社
同社は、就職活動等で(特に米国で)必要となる、身元確認(犯罪履歴や自動車運転歴など)を自動化するサービスを提供している。Greenhouse社やNamely社など数多くのHR企業と提携している。
$100M (4/4)
・RefleXion Medical社
同社は、新しい癌治療の方法を提供している。ポジトロン・エミッション・トモグラフィー(PET)と呼ばれる技術を従来なかった方法を活用する同社の特許技術は、癌治療に革命を起こす可能性があると同社は述べている。
$100M (4/3)
・Sunnova社
同社は、太陽光発電用のソーラーパネルを販売している。2010年以降、アメリカでは、アジア諸国で製造される安価なパネルの出現により発電コストが7割以降も低下したことで、ソーラーパネル導入への障壁が下がったと言われる。その一方で、トランプ政権下での輸入パネル関税問題やオバマ政権下で導入された環境政策の廃止などにより、米国の太陽光発電業界は揺れており、今後の動向には注目が集まる。
$100M(4/9)
・Constellation Pharmaceuticals社
同社は、腫瘍や癌免疫の治療のためのバイオ医療品を研究開発する会社である。同社の医薬品開発は、癌のエピジェネティクス(epigenetics)のリサーチに基づいている。
以上16社のうち、4社がヘルス・メディカル分野で事業を展開する企業(Livongo社、RefleXion Medical社、Constellation Pharmaceuticals社Quality Systems社)であり、2社(Allogene Therapeutics社、Biocytogen社)がバイオテクノロジー事業の企業となっている。
ヘルス・メディカルという、多くの人々にとって生活に密着した分野でAIを使っている企業の成長は、今後も注目に値するであろう。
次に、今年の平均資金調達額の推移を見てみよう。
上のグラフは、2018年の半月ごとの平均資金調達額をグラフにしたものであるが、ご覧の通り、4月前半は、同年1月前半($15,897,083)以来初めての大幅な平均額の下落を記録した。
また、上の図は資金調達した企業の数を表したグラフだが、2018年4月前半のAI関連企業の動向は、先に述べた平均資金調達額のみならず、総数においても、下降の波の中にあるように思われる。
2018年3月に、Uber社のAI搭載自動運転車が事故を起こし、自動運転やAIに対する不信感や「やっぱり自動運転は危険だ」という空気が漂ったのは否めない。もしかすると、この件がAI事業への資金調達の滞りの一因であるとも考えられるが、社会を変えるようなモノや技術には、「注目」と同じだけの「炎上のタネ」がつきものなのもまた事実だ。
「AI元年」という言葉は、AIがわれわれの生活の一部となる時代が、もうそこまで来ているということを示している。いかに、人々が根拠なく持っているAIへの抵抗感を取り除きながら生活に浸透させていくのか。AI業界の今後の成長は、良い意味で予測不可能と言えるだろう。
ceo of hackjpn