働き方は一つじゃない ~サンフランシスコキャリアフォーラム・パネルディスカッション一日目を聞いて~

働き方は一つじゃない ~サンフランシスコキャリアフォーラム・パネルディスカッション一日目を聞いて~

シリコンバレーといえば、世界中のエンジニア達が自らの会社を設立するために集まる場所、いわばエンジニアの聖地である。GoogleFacebookAppleなど世界を代表するIT企業も集まっている。しかし、本当にこの土地はそんなエンジニア達の為だけのものだろうか?

2月19日20日と二日間に渡って、日英バイリンガルの留学生のための就活フォーラムがサンフランシスコにて行われた。そこで、シリコンバレーで活躍する日本人を集めてパネルディスカッションが催された。今回は、一日目19日金曜日の「日米、大手・ベンチャーの働き方の違い」をテーマに行われたパネルディスカッションの模様をお届けしたい。

登壇者:

本間 毅氏(Rakuten USA)堀江 愛利氏(Women’s Startup Lab)西城 洋志氏(Yamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley Inc.)寺井 淳氏(日本経済新聞社デジタル編成局)

シリコンバレーって何が違うの?

まず最初に語られたのは企業風土の違いについて。渡米前、日系大手企業で働いていた西城氏・寺井氏は「若手が上司に提言してもなかなか聞いてもらえない」「縦のつながりしかない(他部署とのつながりがない)」などの点を指摘する。現在エバーノートで勤務中の寺井氏は、金曜の夜に他部署の人と集まって飲む企業カルチャーに驚いた、という。

私もかつて見学したことがあるが、エバーノートのオフィスは至るところにキッチンやソファが置いてある、“仕事場”というよりも“リビング”といった感じの環境だ。また、アメリカのスタートアップ企業にはよく卓球台が置いてあるのだが、それを真似して日系企業が取り入れても「上司が見ている間は自由に休憩できない」というマインドから変わらなければ全く効果はないだろう、と寺井氏は語る。アメリカでは各々社員が自立しているからこそ、くつろげる、リラックスした環境づくりがなされているのだ。

 

シリコンバレーの働き方

登壇者の中で現在もエンジニアとして働いているのは寺井氏、一人である。では他にはどんな仕事があるのだろうか?

西城氏はいわゆるベンチャーキャピタリスト(スタートアップ企業への投資家のこと。シリコンバレーには多く存在する)として働き、大手日系企業とシリコンバレーのスタートアップ企業とのコラボレーションを画策中である。また、シリコンバレーからより多くの起業家が生まれるために投資をし、シリコンバレーの活性化に貢献している。

堀江氏は女性の起業家を支援する団体のトップとして活躍中。起業家のプレゼンテーションやビジネスモデルのブラッシュアップを行うなど、「起業家の育成」をすると同時に、大企業に起業家の紹介などをし、大企業と起業家をつなぐ役割を果たしている。

 

この土地ではよく「シリコンバレーのエコシステム」という言葉が盛んに聞かれる。シリコンバレーが特別なのは、世界中から集まる起業家や、新製品の特許取得のプロフェッショナルである弁護士、ベンチャーキャピタリスト、数多くの起業家を輩出する大学、スタートアップとコラボレーション文化のある企業、新たに起業家が生まれる仕組み・環境など、これら全てを包括する「エコシステム」があるからだ。西城氏、堀江氏は起業家をサポートする立場であり、まさに起業家として以外の「エコシステム」の一員なのだ。

西城氏は「シリコンバレーはアメリカじゃない」という。多国籍のパイオニア達が入り混じっており、クレイジーな発想の人が多い。ビジネスパートナーを見つけるにはまさにうってつけなのだ。

アントレプレナーシップを忘れずに

そしてモデレーターである本間氏が語ったのは、「どんな企業にいても、どんな環境にいてもアントレプレナーシップ(起業精神)を持つ」ということ。本間氏は日本でも自ら起業し、その後日本の大企業で働き、渡米後はアメリカの大企業・スタートアップと様々な就業環境を経験したが、結局はどんな環境に身を置いても「自分が何をするのか」が大事だ、と気づいたという。

アントレプレナーシップ(起業精神)を持つ人はリスクをとることを恐れない。たとえ実際に起業していなくても、アントレプレナーシップを持って大企業に勤めることも必要。自分が新しく何をやるか、という面では、それが組織の中であっても起業家と変わらないのだ。

 

シリコンバレーでの働き方はエンジニアだけだろうか?そうではない。

起業が盛んなこの土地に留学して、起業を目指す学生と共に起業の授業を受けて、多くの起業家に会って・・・それでも自分が起業をする姿が想像できなかった。

だが、西城氏は言った。「起業は手段の一つにすぎない。自分のやりたいことを達成するには組織の中でやったほうがスムーズだし、そのほうが面白い」

シリコンバレーでの働き方は一つではない。私自身がエンジニアではなくビジネス専攻だからだろうか、シリコンバレーで活躍するVCや起業家をサポートする人々、起業家と大手企業をつなぎ合わせる人、など「起業家の周りの人々」に惹かれてしまうのだ。そして私も、シリコンバレーのエコシステムの一部になることは十分可能だろう。

しかしながら、この土地にいる誰しもがみなアントレプレナーシップを持っている。たとえ組織の中にいても、常にイノベーションを起こそうとしている。誰も見たことのない新しいものを創り上げようとしている。だからこそ、この土地の人々はみな魅力的なのだろう。

この土地の働き方は一つではない。